溺愛〜ラビリンス〜

渉から連絡をもらった数日後、柚が登校して来た。久しぶりに見る柚の姿は少し痩せたように見えて、疲れているのか元気もないように思えた。
翔真の看病で疲れているんだろう。心配だったが、柚に近づかず遠くから柚の様子を見ていた。

大丈夫かと声をかけたい衝動に駆られたが、俺が近づく事で柚の気持ちを乱し、苦しめる事になるかもしれないと思うとできなかった。そして何より、アイツ等に宣言して啖呵を切った以上、胸が痛んでも柚に関わるべきじゃないと思った。




授業に出る気にもならなかった俺は、一人普段から使われていない旧校舎の美術室でサボる事にした。

此処は俺がサボリ場にしている場所だ。龍也や大輝は俺がフケる時は此処に居ると暗黙のうちに理解している。

古い机に寝そべって煙草を吸っている。此処に来てもう何本も吸っているから室内は煙草の煙が充満して煙草臭い。苛々して吸い過ぎだと思うが、止められないからさっき窓を開けた。煙に反応して火災報知器が鳴ったら洒落になんねぇからな…


「フゥ…」


煙草を吹かしていると、ドアがガタンと音を立てて開こうとしている。古くて建てつけが悪くなっているから中々開かないようだ。

龍也か大輝が来たんだろうと、視線を向ける事なく煙草を吹かしていると予想もしていなかった声が響いた。





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