溺愛〜ラビリンス〜
「ちょっと!坂本、あんたこんな所で何やってんのよ!」
龍也や大輝とは明らかに違う、女の声が飛んできた事に驚き俺はドアの方に視線を向けた。
「チッ」
思わず舌打ちをして、視線の先にいる人物に不機嫌な声音をぶつける。
「何の用だ?」
「…あんた、今柚がどんな状況か分かってんでしょう?何で傍に居て、柚をフォローしてあげないのよ!」
俺の言葉に更に怒りに火がついたようで、押し入るように上森が入って来て俺に近づいて来る。
「…柚の事は考えている。」
「だったら!何で…」
俺に食ってかかるような勢いだった上森が俺の近くまで来ると、何かを察したのか急にトーンダウンした。
「…上森…」
「何よ?」
「俺は…柚の傍に居る事はできない。柚の事…頼む。」
俺がそう言って頭を下げると、上森は黙ってしまって何も返事をしない。訝しく思って上森に声をかけた。
「…上森?」
「何でよ?あんなに柚第一のあんたが、何でこんな緊急事態の時に柚の傍に居てあげないのよ?柚を守るのがあんたの役目なんでしょ?柚の事放っといて良いの?」