溺愛〜ラビリンス〜
柚が看護師達にお礼を言って、その場の空気が変わったのをチャンスに、これで退散しようと決めた。
「柚…そろそろ帰ろう。」
柚の手を掴んで軽く会釈をするとさっさと歩き出す。
「アッ、しょ、翔兄ぃ…」
柚は戸惑いながら俺に引っ張られて、背後にいる看護師達に頭を下げている。
「まったく仕方のない子ねぇ…じゃあ失礼します。」
背後で母さんの声が聞こえる。
エレベーターに乗ると、慌てて駆けて来た母さんが扉が閉まる前に何とか乗り込んで来た。一階を目指してエレベーターが動き出す。
「まったく…母さん置いていくなんて、親不孝者が!あんたの頭の中には柚しかいないの?」
母さんが少し怒ったように言う。
「あぁ…柚でいっぱいだから、母さんの事を気にしている余裕がない。諦めてくれ。」
俺の言葉を聞いた母さんは呆れた顔で俺を見て、柚に視線を移すと
「柚…こんな重たい男、止めといた方が良いわよ?先が思いやられるもの…」
真顔で爆弾を落とした。
「えっ…あの…」
柚は何て返事して良いか分からず言葉に詰まっている。