溺愛〜ラビリンス〜
「母さん!何て事言うんだよ。」
俺は母さんに詰め寄った。冗談でも許せない話しだ。柚はずっと俺の傍に居なければならないんだ。それを…俺達を引き裂くような事を柚に嗾けるなんて…それでも母親か?ったく…俺はため息を吐いた。
「しょ、翔兄ぃ…大丈夫だよ。私は…翔兄ぃの…傍にいるから…だからお母さんと喧嘩しないで?」
柚が慌てて間に入り、とりなそうとしている。柚を困らせるつもりはなかったが、困らせてしまった事に気づき、慌ててフォローを始める。これ以上この話しをするのは止めだ。柚に視線を向け笑顔で話しかけた。
「柚…大丈夫だ。心配すんな。もうこの話しはお終いにしよう。」
俺の言葉に柚はコクリと頷いた。その時、エレベーターが一階に着きドアが開いた。
俺達は無言でエレベーターを降りて玄関へと向かう。一階のエントランスはまだ午前の外来の診察時間だから混雑している。賑やかな空間を横切って進んで行く。
玄関を出ると、既に迎えのタクシーが待機していた。
今日は父さんがどうしても抜けられない予定がある為、仕事を休めなかった為、タクシーで帰宅する事になっていた。