ツンデレ社長の甘い求愛
人の波に流されながら最寄り駅に向かっていく中、考えてしまうのは明日のことばかり。

次第に社長のことも忘れていく。――そのときだった。


「馬場かすみ様、ですね」

突然私の行く手を阻むように出てきたのは、スーツ姿の四十代くらいの男性だった。

足は止まり、驚きの中、男性を見つめてしまう。

「あの……あなたは?」

やっと出た声は、戸惑いからか少しだけ震えてしまった。

そもそもどうして私の名前を知っているの? 失礼ながら私は知らない。

次第に怖くなっていく。

いや、でもこんな公衆の面前で声を掛けてくるくらいだもの。

変なことはされない……はず。

男性の様子を窺っていると、彼は急ににっこり微笑んだものだから、拍子抜けしてしまった。

そんな私に男性は、抑揚のない声で淡々と述べた。

「あなたとお会いしたい方がいらっしゃいます。ご一緒に来て頂けますでしょうか」

「……はい?」
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