ツンデレ社長の甘い求愛
どうしよう、頭の中が混乱してしまっている。

けれどそれもそのはず。

だって今、私の目の前にいるのは我が社の会長なのだから。


社員なら誰だって知っている。

会社のパンフレットには必ず掲載されている方だし、入社式でも挨拶をされた方だ。

突如目の前に現れた人物に狼狽えてしまい、無駄に手を何度も握り返してしまっていると、後ろからついてきた男性が「お座りください」と声を掛けてきた。

「会長もお座りください」

「あぁ、すまない」

男性は私の前の席の椅子を引き、会長を丁寧に座らせた。

それを見て私も腰を下ろすと、男性は一礼しドア付近へと移動していく。

一連のスムーズな動作に視線を奪われてしまっていると、会長が声を上げた。


「すまなかったね、ご足労願ってしまって。私も歳でね、なかなか思うように身体が動かず秘書に頼んだんだ」

会長が目配せをすると男性は小さく会釈し、「浅野と申します」と名乗った。

「浅野とは長年の付き合いでな、よく働いてくれておる」

「そう、なんですね」
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