ツンデレ社長の甘い求愛
勤めている社員なら誰だって会長の家族構成は周知している。

会長の孫といえば、亡き父の後を継いだ社長のことだと。

つまり会長はなぜか私のことを、社長の恋人と勘違いしているってこと?

やっと理解できると、変な汗が流れる。


「いいえ、それは誤解です! 私なんかが社長の恋人なんて……!」

両手を振り、必死に否定するけれど会長はニコニコ笑ったまま。

「なにも隠すことなかろう。結婚は自由じゃ。好きな相手とするべきだと思っている」

私が隠したくなる気持ちは分かるみたいに、何度も頷く会長にひたすらたじろぐばかり。


そもそもどうして会長は私と社長が、恋人同士だなんて勘違いをなさっているのだろうか。

そんな素振り一度も見せたことないと思うのだけど。

むしろ会議中は敵対心剥き出しだし、なにより会社ではほとんど顔を合わせない。

けれど会長は確信を得た目で私を見つめてきた。


「一ヵ月ほど前じゃろうか、飲食店で大喜と馬場さんがデートしていると報告を受けてな」

一ヵ月前? 飲食店? デート!?

まったく身に覚えのない話に首を傾げるばかり。

だけどちょっと待って。ひとつだけ心当たりがある。


それはうちの会社のカフェに、偶然一緒に偵察に入った日のことだ。

もしかして会長はあの日のことを言っているのだろうか? だったらとんだ誤解だ!
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