ツンデレ社長の甘い求愛
私の質問には一切答えることなく、私のデスクに置かれている荷物を手に取るとオフィスを後にしていく。


浅野さんの歩くスピードが速すぎて、私は引きずられながらついていくのがやっとだった。

「詳しくはお車の中でご説明いたしますので、とにかく今は時間がございません、急いでください」

「そんなっ……!」


いつの間にか息も途切れ途切れになってしまう。

なにより強い力で腕を掴まれていて、本当についていくのがやっとで質問する余裕もない。

意味も分からぬまま、私は地下駐車場まで連行されていった。


「出発いたします」

「は、……はい」

乗せられた車が発進するけれど、私は上がってしまった呼吸を整えることで精一杯だった。

それなのに浅野さんは涼しい顔で運転に集中している。

この車は金曜日、会長のご自宅に連れて行かされた時のもの。

あの日と同じように後部座席に乗せられたものの、ふたりっきりだと気まずい。


けれど理由を聞かなくては。

浅野さんは一体私をどこに連れて行こうとしているのかを。

一度大きく深呼吸をしてミラー越しに映る彼を見据えた。
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