ツンデレ社長の甘い求愛
「大喜様が高校三年生の夏、お亡くなりになられました」

嘘――。

衝撃の真実に胸が苦しくなる。

父親だけではなく、母親までもそんなに早く亡くされていたなんて。



「奥さまは大変立派なお方でした。自分の命が短いと知ると、大喜様に時期後継者としての教育を始められ……。前社長もまた奥さまの気持ちを汲んで、大喜様の教育へ熱心に取り組まれました。もちろんおふたりの気持ちをしっかり受け止め、大喜様も――」


当時のことを思い出してしまったのか、浅野さんは言葉を詰まらせた後、再び話し始めた。



「奥さまがお亡くなりになり、大喜様は大学在学中に海外に渡り経営学を学ばれておりました。息子といえど、一度今井家を出た人間を、なかなか素直に役員たちは受け入れないだろうと見越してのことです。……大学を卒業後も前社長と交流のある会社で学び、次期社長としての知識を得ているときでした、前社長が突然お亡くなりになられたのは」


社長の気持ちを思うと、胸が張り裂けそうだった。


前社長のことは今でも覚えている。

廊下ですれ違う社員ひとりひとりに挨拶を返してくれる人で、社員をとても大切に想ってくれている人だった。


だから前社長が亡くなった、と聞いたときは涙する社員もたくさんいて、私もその中のひとりだった。


「大喜様は誰よりも悲しまれたと思います。しかしいつも気丈に振る舞われ、社長就任後も全力で職務を全うされてまいりました。……ですが、どうしても会長とは昔から疎遠になっておりました」

「え、会長と……ですか?」


意外な話に思わず聞き返してしまうと、ミラー越しに映る浅野さんは困ったように笑った後、その理由を話してくれた。
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