ツンデレ社長の甘い求愛
分かっている。

社長はこんな行為、なんとも思っていないって。

ただ単に部下を誉めているだけだって。

けれど私の胸は大きく揺らがされていく。


チラリと顔を上げれば社長が優しい瞳で私を見つめていて、クラクラしてしまった。

それと同時に社長と山本さんが被って見えてしまった。

社長のきっちりとセットされている髪をぐしゃぐしゃにして、眼鏡を掛けたら彼に見えなくもないかもしれないと――。


大きな手は離れていくと、寂しさに襲われる。

もっと触れていて欲しい、と願ってしまった。


そう思ってしまった自分が信じられなくて床を見つめてしまうと、社長は小さく息を漏らし言った。


「事情は分かった。あとは俺がうまくじいさんに話しておくから、馬場はもう帰れ」

「え?」

咄嗟に顔を上げてしまうと、社長は眉を下げ申し訳なさそうに話し出した。


「今日は大きなパーティーでな、会社関連の重役たちやトップがたくさん来ている。いくらフリとはいえ、こんな公の場で紹介なんてされてみろ。社内はもちろん、業界中に噂は広まる。……嫌な思いをするのはお前だ」

「社長……」


もしかして私のことを心配してくれているのだろうか。

ううん、きっとそうだよね。だから帰れって言ってくれているんだ。
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