ツンデレ社長の甘い求愛
そう言うと社長は濡れた顔を手で拭い、私をふたりから庇うように彼らと向き合った。


大きな背中に守られている感じがしてしまい、胸が鳴ってしまう中、社長はいつになく低い声で静かに言い放った。


「さっきも言いましたが、俺は自分に与えられた職務を全うしているだけです。……それを当たり前の職務さえ全うできていないおふたりには言われたくないですし、俺の部下を悪く言う権利もありません」


「なんだとっ……!」


「なにを言われようが事実ですよね? 従兄弟として黙ってはおりますが、おふたりが役員を務めていらっしゃる社員から噂を聞きますよ。……あまりよくない噂を、ね。それを今のこの場で言ってもいいのなら言いますが……」


含みのある社長の声に、隙間から見えるふたりの顔色が変わった。

「なにを言って……バカらしい。付き合っていられねぇ」

「せいぜい退任に追い込まれないよう、精進するんだな」


なっ……! どこまで人のことをバカにすれば気が済むのだろうか!

けれどふたりはバツが悪そうに、そそくさを会場から去って行ってしまった。


どうやら社長の話は真実なようだ。

でも疑う余地もない。あんなに根性が悪いんだもの。会社でも悪いことをしていると聞かされても、「やっぱり」と思っちゃうし。


さっきまで静まり返っていた会場内。

けれど次第に人の目も少なくなっていき、騒がしさを取り戻していく。
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