ツンデレ社長の甘い求愛
私の気持ちが伝わったのか、会長は嬉しそうに目を細めた。


「ありがとう。……浅野、ふたりを自宅まで送ってくれないか? 私が抜けるわけにはいかないからな」

「かしこまりました」


浅野さんに伝えると、会長は再び私を見据えてきた。

「馬場さん、どうかこの老いぼれとまた会って下され。……できれば今度は大喜とふたりで」


社長とふたりで。

それは無理なお願いだと思っても、首を横に振ることなどできなかった。

「はい、機会があればぜひ」

そう伝えると会長は「楽しみにしている」と言い残し、会場へと戻っていった。


しばし会長の背中を見送ってしまっていると、浅野さんに声を掛けられ、慌てて後を追った。


「本日は本当にありがとうございました。……おかげで会長にお辛い思いをさせずに済みました」

「いいえ、そんな……」


あれから浅野さんと一緒に社長を後部座席に乗せた後、私も隣に乗り込み、浅野さんの運転で自宅マンションへと向かっていく。


隣に座る社長は相変わらず規則正しい寝息を立てていて、深い眠りに入っている様子。

本当に朝まで目を覚まさなそうだ。
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