ツンデレ社長の甘い求愛
「馬場様、お隣にお住まいですよね? でしたら鍵は明日、大喜様にお返ししてください」

「そんな、困ります!」

社長は隣に住んでいるのが私だって知らないのだから。


けれど浅野さんには私の話を聞く余裕などないようで、「よろしくお願いいたします」というと、逃げるように帰って行ってしまった。


バタンと玄関のドアが閉まる音が響いた後、私は呆然と立ち尽くしてしまう。

「……嘘でしょ」

浅野さんに帰られたら困るのに。

しばし呆然としてしまっていると、ラブちゃんが心配そうに「クゥ~ン」と鼻を鳴らした。


「あ……ごめんねラブちゃん。……長い時間ひとりでお留守番していて、寂しかったんだよね」

頭や顔を撫でるとラブちゃんは嬉しそうに尻尾を振り振り。


「本当に社長が山本さんだったんだね……」

ラブちゃんがここにいて、私に懐いているのが何よりの証拠。


さて、どうしたものか。

浅野さんが急に帰るものだからテンパってしまったけれど……。

私の手にはしっかり部屋の鍵が握られている。

鍵をどう返そうかと思ったけれど、別に普通に返せばいいだけの話だよね。

会社でさり気なく一連の経緯を話して。
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