ツンデレ社長の甘い求愛
なんですか、楽しかったなんて言いながら口元緩ませて。

そんなことを言われてしまったら、色々と期待してしまうじゃないですか。


「今日のに食べたラーメン、あれも美味しかったな」

「そうでしたね、さすが本場のラーメンでした」


信じられない、社長とこんな風に話せているのが。

ほんの数ヵ月前の自分が聞いたら、腰を抜かしてしまうんじゃないだろうか。


「馬場の食うスピードが男並みに早いのには驚かされたしな」

「そっ、それは食べている時間が勿体なかったからでして……! けっこう無理していましたから」


慌てて弁解すると、社長はクスクスと笑い出した。そして目を細め囁くように言ったのだ。
「分かっている」と――。


私のことを理解しているみたいな口ぶりに、胸の高鳴りは最高潮を迎えてしまうよ。


社長にとって私は部下だから。……だからそんな風に笑ってくれるんですか?

それとも部下とは違う感情を抱き始めてくれている……って思ってもいい?


本能のまま雰囲気に流されて言ってしまおうか。

「社長が好きです」と。

「社長の隣に住んでいる長日部さん、実は私なんです」って――。


聞いたら社長はどう思うだろうか。

好きって言われても迷惑? 困る?

私が長日部さんだと知ったら、幻滅する? もう一緒に散歩してくれない?


社長の気持ちを考えれば考えるほど、冷静になっていく。


何考えているんだろう。告白の前にまずは謝らないといけないじゃない。

不可抗力とはいえ、社長に偽名を名乗っていたわけだし。


社長は最初から嘘をついていなかった。

会社では〝今井大喜〟だけれど、戸籍上は〝山本大喜〟なんだもの。


それなのに私は、咄嗟にとはいえ説明するのが面倒で〝長日部〟と名乗ったまま。
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