ツンデレ社長の甘い求愛
「あぁ。それで浅野にすぐ病院にって言われたんだけど……」

そこまで言うと言葉を濁し、なぜか視線を逸らしてしまった社長。


「きっとじいさんなら、仕事を優先しろって言うと思うんだ。……昔からそういう人だった。身内よりも会社を優先する人だったから」


――それは亡くなったお母さんのこと……?


喉元まで出かかった言葉を呑み込み、社長の話に耳を傾けた。


「俺が病院へ行って付き添っていたら、目を覚ましたときに必ず怒るはず。俺がじいさんのためにできることといえば、会社を守ることだと思うから」


胸がギュッと締め付けられていく。

社長も会長もなんて不器用で、素直になれない人なのだろうか。


お互いの気持ちを素直に相手に伝えることができず、すれ違いながら想い合っているなんて、こんな悲しい話ある?

ふたりの気持ちを知ってしまった私には、もどかしくて堪らないよ。


「悪い馬場、話はまた後で聞く」


どうやら社長は本気で会長が搬送されていった病院には行かず、仕事に向かうつもりらしく、電話で迎えの車の手配を頼み始めた。


人の家庭にズカズカと足を踏み入れるものではないと分かってはいるけれど、今回ばかりは黙ってなんていられないよ。
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