ツンデレ社長の甘い求愛
ゆっくりと離されていく身体。

彼は私の顔を覗き込んでくると、クスリと笑った。


「行ってくる。お疲れ」

何事もなかったように私の頭を撫でると、社長は電話をしながら人混みの中に消えていった。


見えなくなった今も彼が歩いていった先を見つめたまま立ち尽くすこと数分。


震える手で触れたのは、社長がキスを落とした頬。

思いの外熱を帯びていて、それだけで容易に想像できてしまう。

今の私の顔は茹でタコ状態ではないかって。


何度も頭の中で繰り返される、『無性にお前にキスしたくなった』のフレーズ。


あんなことされて言われて、期待するなって言われたって無理だ。

私……期待しちゃいますよ? 社長も私のことを異性として意識してくれているんじゃないかって。


ドキドキとうるさい心臓。

落ち着かせるように深呼吸をし、祈るばかりだった。


会長の容態が良くなりますように。……そして、ふたりとも素直になってお互いの想いを伝え合えますようにと。


強く強く願ってしまった。
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