ツンデレ社長の甘い求愛
そうだったんだ、だからあのとき――。

謎がひとつひとつ解けていく。


「騒がれるのにうんざりして、大学進学を機に見た目を変えたんだ。コンタクトから眼鏡に変えて、髪もセットせずにボサボサにしたまま。服装もラフなものばかり。そうしたら誰にも見向きもされなくなった。笑えるよな、所詮外見でしか判断されていなかったんだから」


そう言って笑う社長だけれど、声が泣いているように聞こえた。


私が社長の立場だったら、悲しいと思うから。

本当の自分を知って好きになってくれないんだ、外見だけなんだと思うと悲しくなるよ。


たまらず社長の背中にギュッと腕を回すと、彼はクスリと笑った。


「言っておくけど俺は好きであんな格好で過ごしているんだ。誰からも見られず過ごせることが幸せだったしな。でもさすがに大学を卒業した後、父さんに言われたんだ。社会に出る以上見た目だけはしっかりしろって」


そうだったんだ……。


「けれどそんな父さんが亡くなって……、強くならないといけないと思った。若い分、なめられないよう誰よりも仕事ができるようにならないといけないと。厳しくすることで自分の威厳を守ってきたのかもしれない。……じいさんや親父が築き上げてきた大切な会社を、俺のせいでだめにしたくなかったから」


社長の想いが痛いほど伝わってくる。
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