ツンデレ社長の甘い求愛
近づいてくる足音。

向こうも私の姿を捉えると、足を止めた。

「なんだ、馬場か」

相手が私だと知り驚いているようだけど、こっちもびっくりだ。

まさか社長様が非常階段を使用しているとは、夢にも思いませんでしたから。


「……お疲れ様です」

なんだってなんですか? 私が非常階段を使うことに対して、なにか問題でもありますか?


いつもの如く心の中で散々突っ込みを入れながらも、「どうぞ、お先にお下りください」の意味も込めて頭を下げた。

なのにいつまで経っても社長は立ち尽くしたままで、下りていかない。


どうして行かないの?
こんなところで会っちゃっただけでも気まずいっていうのに。


早く行ってください、いつも忙しいんでしょ? この後もなにか予定が入っているんでしょ?


チラッと顔を上げて様子を窺うとバッチリ目が合い、「しまった」と思ったのと当時に社長が口を開いた。


「ちょうどいい、話をしながら下りるぞ」

「――え、話ですか?」

「あぁ、早く」
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