ツンデレ社長の甘い求愛
「馬場はひとりで抱え込みすぎ。なんでも自分でやりすぎるんだ。それじゃ自分も他人もだめにするだけだぞ」

意外だった。
もっとズバズバと酷いことを言われるとばかり思っていたから。

拍子抜けしてしまい、真意が読めない顔で私を見る社長を茫然と見つめてしまう。


「自分ですべてやってしまうのは簡単だが、時には任せることも大切だ。任せることによってもう一度事案と向き合い、気づけることもあるだろうし、より良いものになることもある。部下にそれを気づかせることができて、やっと一人前になれるんじゃないか? 人の上に立つっていうことは、そういうことだ。時には信用して任せ、耐えることも必要なんだ」


社長の話に頭をよぎるのは、今朝の打ち合わせの一幕。

そういえばあのときの社長、ずっと待っていたよね。開発部の人が答えるのを。


「あいつだってあの場を切り抜けたら、一皮むけていたと思わないか? 俺にしっかり意見できれば、取引先との交渉だって堂々といけるってもんだろ?」

そうだったんだ、だから社長は――。

途端に恥ずかしくなってしまった。

あまりに自分が幼稚な考えでいたかを思い知らされてしまったから……。
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