ツンデレ社長の甘い求愛
「でも俺は意外と嫌いじゃないよ、馬場みたいな部下。……それに素直に理解できるやつだってことも、ちゃんと分かっているから」

「社長……」

ポカンとしてしまっていると、社長はほんの少しだけ口角を上げた。


「今後のお前の成長を期待しているよ。お疲れ」

「――っ!?」

不意打ちの優しさに息が詰まる。


規則正しく階段を下りていく音が遠退いていく。

ドアが閉まる音を最後にシンと静まり返ったところで、やっと大きく息を吐き軽くよろめいてしまった。


「なに? さっきの」

よく不意打ちの笑顔や言葉にやられた! なんて話を聞くけれど、まさにさっきのあれがそうじゃないですか?


なんなの? 散々人のこと罵ってきたくせに「期待している」とか!!

今までそんなこと、ひとことも言ってくれたことないじゃない。
それなのに――……。

「ズルイですよ、社長」

人が弱っているときに不意打ちの優しさは反則です。

仕事の面でしか尊敬できずにいたのに、少し……ほーんのちょぴっとだけいい人なのかもしれない、なんて思っちゃったじゃない。

カツン、カツンと間の空いた階段を下りる音が響く。
社長の後を追うように、私も階段を下りエントランスへと向かっていった。
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