ツンデレ社長の甘い求愛
「あの、先ほど挨拶をされたと思うのですが……、もしかして気づかれていませんでしたか?」

様子を窺いながら聞いてみると、途端に山本さんの表情は強張り、恐る恐る私の方へ顔を向けた。

「えっと……はい」

肯定しているけれど、彼の目は忙しなく動き私をしっかり捉えていない。
嘘だってことが明白だ。


すぐに出そうになってしまった「バレバレですよ?」の言葉をごくりと飲み込む。

咄嗟に社長の言葉が頭に浮かんでしまったから。

“時には耐えることも必要だ”と言った社長の言葉が。


仕事じゃないけれど、今も当てはまるんじゃないかな? 

聞くことは簡単だし、意外とあっさりどうして挨拶を返さなかったのか、その理由を教えてくれるかもしれない。

けれど人には誰だって言いたくないことや、理由があるもの。

山本さんが「気づかなかった」と言う以上、追及するわけにはいかないよね。

「そうだったんですね。じゃあ今度お会いして挨拶された際は、ぜひお話してみて下さい。皆さん良い方たちばかりですから」

「――え」

にっこり笑って言うと、山本さんは面食らったように目を丸くさせた。
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