ツンデレ社長の甘い求愛
「長日部さんは素晴らしいですね」

「え、なんですか急に」

突拍子もない誉め文句にもまた笑ってしまうと、彼は照れ臭そうに言った。


「俺の気持ちを汲んでくれたからですよ。……本当は気付いていますよね? 俺が挨拶されているのを気づいた上で返さなかったって」

「それは……」


気づかないふりをしようと思っていたのに、言葉を濁してしまっては「気づいていました」と言っているようなものだと、今になって気付き後悔してしまう。

なにやっているのよ、私。
ここで押し黙ってしまってはだめでしょう。


なにか言わなくてはって思っていても、気の利いた言葉が出てこない。
そわそわしてしまっていると、今度は山本さんがクスリと笑った。


「すみません、余計な気遣いをさせてしまって。……でも触れてほしくないところだったので、非常に助かりました」

「そんな……」

深々と頭を下げた彼につられ、私もまた頭を下げてしまった。


「長日部さんは今までずっと周囲に頼られてきたんでしょうね。そういう人ではないと、他人を気遣うことなんてできませんから。羨ましいです、長日部さんのご友人や職場の方が」
< 76 / 347 >

この作品をシェア

pagetop