零 ―全ての終わりと始まり―
「・・・まず、お前に訊きたいことがある」

レクトはそう言い、ファロルの顔を見つめた。
その顔は普段の彼からは想像出来ないくらい険しく、真剣だった。

「ファロル、お前の話は聞いた。旦那様がお前を捕らえようとしていることだ。
これでお前は確実に屋敷・・・いや、この街にいられなくなる。
これから先どうするつもりなのか、それが訊きたい」

「・・・とりあえず、今は決めてない。
だけど、俺にしか出来ないことがあるなら、それをするつもりだ」


「・・・そうか」

ふぅ、とレクトは息を吐き、不意に空を仰いだ。

「これも神が定めた運命か・・・」

ファロルには聞こえぬよう小さく呟き、彼はただ空を仰ぐ。
彼の長い緑色の髪がするりと流れ、微かに風に揺らされた。


「・・・分かった。さて、分かってるとは思うけど、俺が来た理由はこれだ」

言いながら、レクトはファロルにある書物を差し出した。
黒い革の表紙のそれは、相当古いのか、所々擦り切れていて、中の紙も黄ばんでいる。
ファロルはそれを受け取ると、表紙に目を落とした。

「・・・おいレクト。俺は古代文字なんて読めない」

「ああ、悪い。忘れてた」

忘れてたと言いつつ、レクトの顔は笑っている。

「だが・・・これはお前の望むものではないかもしれない」

小さく呟いたレクトの言葉に、ファロルが眉を潜める。
先ほどとは一転して、厳しい表情になったレクトはファロルを見つめたまま、再び口を開く。

「知らない方がいいこともあるってことだよ」

意味深なレクトの言葉に首を傾げ、しかしファロルは不敵な笑みを浮かべた。

「知らないこと・・・な。
でもそれを知って先に進めるなら、聞くまでだ」

ファロルの言葉と眼差しに、レクトは大きな溜め息を吐いて、しかし困ったように微笑んで表紙を捲った。

「ファロルならそう言うと思ったけどね」

さて、と言葉を続けながら、レクトは更に書物をペラペラと捲っていく。

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