さくらの空
「いらっしゃいませー。あら、夏樹君じゃない?」

「お久しぶりです、遥さん。コーヒーお願いします。それから千秋ってまだいます?」

「はいはーい、ちょっと待ってね。たぶん上のフロアだから。」

コーヒーをとんっとカウンターの上に置き、遥さんは階段を上っていった。


(ちあきー、夏樹君が来てるわよー。)

(了解ですー)

(もうあと10分くらいだし、今日は上がっていいわよ。)

(あ、ありがとうございますっ)



そんなやりとりが上から聞こえてくる。

俺はコーヒー片手に適当な席に座った。

昼を少し過ぎた位なのに意外と店内は空いていた。

まぁいつ来ても大抵空いているのだけれども。

この店には大学1年の頃からお世話になっている。

勉強をしていても怒られないし、なんといっても遥さん――店長が美人だからである。

30過ぎという噂もあるが、25、6才といわれても絶対に信じてしまう。

というわけで、いろいろと不純な動機を抱えつつ、この店の常連となっているのだ。

千秋に関して言えば、去年の4月から働いているらしかった。

まさか同じ研究室になるとは思わなかったし、そもそも同じ大学ということすら知らなかった。

元々俺はそんなに人付き合いもうまくないので、つい最近までは挨拶を交わす程度であったのだが、世の中何が起こるかわからない。


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