好きになるまで待ってなんていられない
−序章−
カラカラカラ…。
「ミンちゃん、…おはよ。ご飯だよ」
開けると同時に身を屈め、ベランダのプランターにモグラのようにゴソゴソと近づいた。通勤する車の群れから身を隠すためだ。ご飯というのは水。水やりだ。
…ふう、眩しい。今日も天気がいい…過ぎるじゃない…。こんなにスッキリ晴れられてしまうと、逆にモチベーションが下がってしまうのよ。
澄み切った青空の力強さには、元気を取られる気がする。
去年は日差しの強さに負け全滅してしまった。茶色く枯れていく葉を見つめながら悲しかった覚えがある…。確か根まで駄目になってたっけ。
今年はなんとか一本だけ元気に育った。
大きなプランターに一本だけだからかな。スクスク育ち過ぎたくらい。
ベランダのプランターで一人逞しく育っているのはミント。だからミントのミンちゃんなんだけど…くだらない。安直なネーミングだ。水やりの時にただ呼んでいるだけ。
確か花の種も蒔いた筈だったけど…。
…こっちは駄目だったかな。
「君だけが一人大きく育ったんだよね…」
…返事はないんだけど、いつも話し掛けてしまう。
さっきまで、ベッドの中で聞いていた、交差点で急かすように鳴っていたクラクションの音。今は嘘のように静かになっていた。通勤車、恐るべし。
…よし。
数分の日光浴も終わった事だし、部屋の中に戻ろう。
「おはようございます。ごめんなさい。今朝は後回しになってしまいました」
お線香に火をつけ、お水を取り替え、手を合わせる。
「今日も取り敢えず生きてます。安心してください。言える事は今日もそれだけです」
ふぅ。
いつものように珈琲を入れる。ブラック珈琲しか飲まない。
湯気と共に立ち上るこの香りは、とうの昔から中毒になっているのかも知れない。落ち着くし癒される。私には無くてはならないモノになっている。
…一体いくつから飲んでいるだろう。
今朝は簡単にマフィンを焼き、ハムと目玉焼きのターンオーバーを挟んだ。
あ、ケチャップ、中に塗らないと。ブラックペッパーも、ちょっと振らないとね。胃に何かを入れるのが目的のような物。
ふぅ。もっとちゃんと食べなきゃ、肌だって綺麗になるどころか、衰える一方じゃない…。解ってるけどね…はぁ。
中途半端な一人暮らしも、流されるまま長くなったな…。