好きになるまで待ってなんていられない
私は傷ついたりしない。
傷つけてしまうのは慶而君…。
…ただドキドキするだけにしておけば良かった。
言ってはいけなかったし、受け入れてはいけなかった。
始めから終わってしまう思い…。
解っていた事なのに…。
…どんな関係にもなってはいけなかったんだ。
どこかで…解ってたのに。
好きになればなるほど辛いって。
「成美?大丈夫か?」
「あ、はい」
「ここに着替え置いとくから」
「有難うございます」
…。
社長だって…大迷惑だ。
行き先に困っても、来てはいけないところなのに…。
今の私は狡い。
何故真っ直ぐ部屋に帰らなかったんだろう…。
きっと、解っている事を言われたかったんだ。
冷たく、淡々と、言って欲しかったんだ。
…。
「社長…」
「おぉ、出たのか、着替えなかったのか」
…。
「私、帰ります」
「…フ、うちは風呂屋か…。入浴料、取るぞ」
…。
「はい、すみません」
「謝らなくていい」
…。
「帰ります」
「ああ」
…。
あの男のところ、…一緒に居られなくなって飛び出しても、ここだって今の灯に居られる場所ではない。それは解っている。
「今日は来なくていいから。
仕事には出て来い。
自分の日常は崩すな。
一人で生きていけなくなる。立ち上がれなくなる。
いいな?仕事は休むなよ。
…髪、濡れてる。
ちゃんと乾かしてから帰れ」
「はい」
私は一人。いつだって、今までだって、自分で決めて生きてきた。
いつもぶつかるのは初めての事ばかり。
経験があって乗り越える術なんていつも知らない。
でも一人で決めてきた。
「…夕べの…後のメールは私ではありません」
「ああ」
…。
そんな事は解ってるさ。
…はぁ。