好きになるまで待ってなんていられない
…。
ドアの前には慶而君が座り込んでいた。
「お帰り」
…。
立ち上がった慶而君の横で鍵を開けた。
当然、普通にお帰りって言ってる訳じゃない。
あくまで普通にしているだけ。
ドアを開け中に入った。
あ…。
「心配した…はぁ。良かった。帰って来てくれて、…良かった」
「ごめん、…ごめんね。…ごめん、慶而君」
入りながら後ろから抱きしめられた。
「…解らない。あんなに好きだって言って、ずっと抱き合った。
なのに何にも言わないでいなくなってるなんてあるか?
どうしてだ。灯…」
「上手く言えないの。好きなのに。好きって言っちゃいけなかった」
「は?好きなものを好きって言って何が駄目なんだ」
…。
上手く言えない。
ただ好きなだけなんだからそれでいいと言えばいい事。
…駄目になったら駄目で…、それでいい事なんだ。
それ以外無いんだから。
だから、…駄目になった時は…駄目になった時って事。
そうか、…そうよね、…そうだった。
好きだってだけで良かったんだ。
「ごめん。黙って帰って来ちゃってごめんね」
腕を解いて前から抱き着いた。
そうして誤魔化した訳ではない。気持ちからそうしたかった。
私は今ずっと慶而君の事が好きで…それで…いいんだ…。
それしか私達には無いんだから。
「ごめんね、感情的になって、…心配かけて。
もしかして、もう早目の更年期とかかな…」
「それはまだ無いだろ」
「そうよね、好きな人が居て、ずっとこんなにドキドキしてたら、まだ無縁の話よね?」
「灯…俺、したいだけばっかりじゃないからな?
好きだからしたいんだ。
会う度してるから嫌か?
灯がしたくないって思ってる時、俺が無理矢理してるか?」
強く首を横に振った。
「違うの、そうじゃないの。そんな事無い。
私みたいなの…私は嫌だなんて思った事は無い。
慶而君は労ってくれて…しない時もあるもの…」
「私みたいなのってなんだ。
…そんな事、考えて、…だから居なくなったんだろ。なあ、そうだろ」
…。
そうじゃないとも、そうだとも言えない。
年齢、年上、オバサン…マイナスな事を考えたら一緒になんて居られない…。…最初から。
ずっと変わることのない隘路なんだから。
ううん、毎日増すばかり、よ。若返ったり出来ないんだから。
「ね?慶而君、…私から誘ってもいいの?」
「…灯。…いいよ。いいに決まってる」
「じゃあ、運んで?」
「まだ。…今キスがしたい…。抱きしめたい。
それからだ…」