好きになるまで待ってなんていられない
「私の灯って名前はお父さんがつけてくれた名前なの。
大切な人の心の明かりになれるようにって」
「灯って、名字と合わせて、字面も綺麗でいい名前だよな」
「…ありがと」
成美 灯という名前。
出来れば変えたくないと思っている。
「母親は…居なくなったって、お父さんが言ってた。
まだ私が小さい赤ちゃんだった頃に。
だから凄いおばあちゃん子で、大事な事はおばあちゃんに教えて貰った…。
お父さん、仕事に一生懸命で…死んじゃったけど私どこかずっとファザコンなのかも知れない。
おじいちゃんはね、威厳のある人でね、怖かった。
でもね、小さい時に言われた事があって、それは何故だか凄く印象が強くて、ずっと記憶に残ってるの。
字は綺麗に書きなさい。数字は間違われないように丁寧に書きなさいって。
仕事で間違いが起きる元だからって」
「へえ。なんか失敗した経験でもあったのかな」
「そうかも知れない。
……ねえ慶而君。
もしね、私達、別れる時が来たら、好きでいるうちに別れたいの。
そんなの…どこからが境目なんだって…解らないよね。
慶而君の好きって思ってくれてる気持ちが薄れて…、もう好きかどうかも解らなくなって、それで、嫌いになってから別れたいって言われたくないの。
別れてから嫌いになられるのはいいの。
慶而君の気持ちが無くなる前に終わりにしたいの…」
我が儘な話だと思われるだろう。慶而君は言いにくい話だろうから…。
私はもう40歳になる。
ただつき合っているだけだから関係無い話かも知れないけど…。
子供も、多分無理だと思う。だから結婚も、望んではいけない。
結婚も子供の話もした訳じゃないし、それに慶而君は私とはそこまで考えないつき合いなんだよね。
お互いに好きって事だけ。それでいいって言ってた。
そんな関係で始まってそして終わるのよね。
遊びじゃない、いい加減じゃないっていうのは、からかってつき合っているんじゃないっていう、この現状だけに関してよね。
「…遠回しに、今、終わりにしようって言われてる気になるな…」