好きになるまで待ってなんていられない


「社長、ちょっといいですか?」

「おお、構わないぞ」

今、事務所に社長と私しか居ない。
だけど一応、誰かが突然入って来た時に備えて、応接エリアに誘った。


衝立の中、椅子に座る。

「これ、一度お返しします」

社長の部屋の鍵と種類の違うカード二枚。
テーブルの上に置いた。

「ん。週末飯は駄目になったか…。
…ん?一度?」

「はい。狡いから、そう言いました」

「…つまり、今は恋に集中したい。だから中途半端な関わりは出来ない、という事だな」

「はい」

…流石、社長。話さなくても解るって事か…。

「で、狡いというのは?」

それも、言わなくても解っていると思う。
だけど、これは大事な事だから敢えて私の口から言わそうとしているのね。

「…何もかも失って…終わった時、社長を利用する為です」

「…それは駄目だ」

え。……そうか。もう、そう都合よく、社長を支えのように思っていては駄目だって事か。…調子の良すぎる考えだとは思っていたけど。

「何もかも終わった時は、利用するんじゃなくて、本気でしてもらう。
そうでなければ駄目だ」

あ。

「そうじゃなきゃ、俺は成美を丸ごと受け入れない」

真剣な話だ。

「はい、…解りました」

「お、今、解りましたと言ったな?言ったからな」

社長?

「契約成立だな。いいか?口約束でもちゃんと契約っていうのは成立するんだからな。
覚悟しておけよ」

あ、え?…。

前から腕を引かれ唇が触れた。

え?

「ん?…ん、誓いのキスだ」

…。はっ。

「あ。ば、馬鹿じゃないですか!こんな事…こんなところで…」

「フ、ここじゃないところがいいなら、場所、変えるか?
都合ならどうとでもつけられる。今からでも俺は構わないぞ?」

「え゙、もう、馬鹿ですか?」

「フ、ハハハ。俺は成美に対してだけキス魔だからな。このくらいは許して貰おうか。
逆にこのくらいで抑えたんだ、感謝して欲しいくらいだ。
大事な成美が出戻って来るのを、いい子で待たないといけないんだからな」

社長…。急に真面目になるから、本当、解り辛い。

「うちに来て作らなくていいから、飯につき合ってくれればいいよ」

「え、はぁあ?」

もう次の手段?

「いつもじゃない。たま〜にだ。
会社の福利厚生の一貫だ」

…。ちっともいい子で待つとは思えない。

「…考えておきます」

「フ。…解った。順調なのか?」

「え?それは答える必要は無いと思います」

「…そうか。俺も…、言う必要は無いと思うけど、一応言っておく。
ただ大人しくじっと待ってるだけなんて思うなよ?
壊れたく無かったら、隙を作らず、いつも一緒に居る事だな」

「社長…」

どっちにも取れる…。
妨害しようとしているとも、助言とも。

もしかして…慶而君との期間を短くさせようとする作戦?

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