好きになるまで待ってなんていられない
「という事で、福利厚生の一貫なんて言って、明日は社長と御飯になったの」
…。
「慶而君?」
「…時間、きっちり決めて、帰って来るならいい…」
「うん、解ってる」
…。
「慶而君?」
「はぁ…、なんでこんな…。社長だから?福利厚生だ?しかも二人で?
…本当、上手く利用するよな。そんな名目にして灯とちゃっかり御飯するんだもんな。
御飯以外の事は何一つ駄目だからな。
絶対、駄目だからな。
まだどこ行くか決まって無いのか?」
「うん。当日決めるって」
…。
「それも…なんか手だよな」
「手?」
「俺に見張らせない為に。決めてたって咄嗟に変えればいいんだからな…。あー、止め止め。
こうして話題に出す事も狙ってるんだから」
「すぐ帰って来るから」
「ああ、当たり前だ」
「1時間くらいの事だから」
「…ああ、1時間でも長いくらいだ…」
「慶而君、可愛い」
「ぁ゙あ゙?」
…。
「妬いてくれてる?」
「当たり前だろ?なんの感情も無いって相手でも、男と二人で御飯なんて気になるのに。
其れ処か、相手は灯の事、狙ってる奴なんだからな」
「大丈夫。のらりくらり、かわす術は心得てるから」
「…そんなのはなー。甘い考えだぞ?
はぁ、まあ、言って見たところで、しようがないけどな…」
「慶而君、好きよ?」
…。
「そんなのはな…狡いぞ。俺だって…好きに決まってる」
あ、キャ、わっ。押し倒された。
「オバサンでも可愛いもんは可愛いんだ」
…。
「それ…、言われる度いつも思うんだけど、本音よね?」
…。
「返事して」
…。
「言った通りだ。だけど、待て。これは最初の頃の印象の事だ」
「え゙?」
「俺より年上だとは思った。だけど、気まずそうに俯いて、それが可愛いと思ったんだ。本当だ。
誤魔化そうとして言ってるんじゃない。
本当にそう思ったんだ」
「別に…オバサンは事実だからいい」
「…ごめん。だけど知らない人相手だと、ついオバサンとか言う事あるだろ?」
「あるでしょうね。オバサンだから?
知らない小さ〜い子供とか、誰でもオバサンって呼ぶもんね〜」
…。
「灯、ごめん。…ごめん」
ギュッと抱きしめられた。
「ごめん、灯」
…。
「事実だからいいの、いいんだってば」
「ごめん灯」
「あんまり謝れると嫌」
…。じゃあ、どうすりゃ…。
…。今、どうしたらいいんだって思ってるでしょ。面倒臭いオバサンだって…。
「ごめん、灯。ごめん。怒った灯も可愛い」
…もう、…言いようが無くなったんでしょ。
「いいって言ってるのに…無理して。馬鹿…」
「灯、キスしていい?」
俯いたまま黙っていたら、もうしてる。
「…ん、…噛まないでくれよ…」
…。
噛んでやろうかな。
「ん、ん?灯…殺意を感じる」
そりゃあそうでしょ?
今までまともに言い争った事なんて無かったんだから。
これからはもっと正直に話す事が増えると、いざこざもきっと増えるはず。
「そうね…、慶而君が若い子に目を向けたら殺すかも」
「ん…じゃあ…灯より一つくらい年上の人としようかな…ん」
ん?!、*≠#※!!
「痛っ!……灯〜…」
「これでキスは出来ないわね!」
ふん、だ。
「あ、…馬鹿、灯。浮気なんかしない、冗談だろ、そんなの。
浮気どころか、痛…灯とだって出来なくなったじゃないか」
「…あっ」
「…もう。はぁ…。短気というか、向こう見ずっていうか…。
はぁ、こんなところも可愛いんだけど。
痛いから…これはもう勘弁してくれ」
「…ごめんなさい」
「…満足させられるキス、今日はもう出来ないぞ?それ以外で満足させるけどな…」
「あ、マッサージ、整体の事でしょ?」
……。
−終−