好きになるまで待ってなんていられない


来ないなら来ないで連絡しろって言っただろうが…。
もう8時前だ。
…、しまうとするか。

施術室を簡単に片付け、明かりを消し、玄関口の鍵を掛け裏から出た。


「お待ちしてました」

は?

「何の連絡もせず、勝手に待たせて頂いてました」

…。

「藤木様、ですよね?」

「はい、藤木です。
大変妙なコンタクトをして申し訳無かったと思っています。
生憎と、背中も腰も、どこも調子は悪く無い。
頗る快調なんですよ」

…。

「出来れば、少し話をしたいのですが」

「…生憎と、…面識も話す約束も無い方と、いきなり時間を共有するつもりはありませんが」

「それ…もっと言えば、私が…、俺が、成美の会社の人間だから、ですか?」

「会社の人間?…、はっ。そんな遠回しな言い方しなくても…、それだけじゃ無いですよね?
じゃないと俺に会いに来るなんて用は無いと思います」

「確かにそうです」

「こうやって既に挨拶以外の話になったら、時間云々より、結局流れで話してしまう事になる。
場所を変えましょうか。
どこか行きますか?
ご存知でしょうが、ここは直ぐそこに今も灯が居ます。
移動した方が都合がいいですよね」

「構わなければ、うちに来ませんか」

「は?どうしてまたお宅に…」

「それ程遠く無いし、どうでしょう」

「行く意味が解りません」

「まあ、どこかの店に行ってもいいですが、込み入った話になります。
珈琲くらいなら出します。
同じ事でしょう?」

「車は?」

「まだ会社です」

…。

「一緒にドライブはごめんだ。
住所を教えてくれますか、後から行きますから。
すっぽかしたりしない、先に帰っててくれますか」

「解りました。では…」

名刺を取り出し、裏に書き始めた。
書き終わると、ここです、と出されたから仕方なく受け取った。

「同時に着くのもなんだから、30分くらい後に出ます。いいですか?」

「解りました」

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