好きになるまで待ってなんていられない
…ここか。
ピンポン。
「わざわざすまなかったな。入ってくれ」
…。
「こっちに、取り敢えず掛けてくれるか」
…。
「珈琲はブラックでいいかな」
…。
「あ、あぁ、はい」
何だ…この部屋…。
結婚してるんだったよな。いくつか知らないが、子供は居ないのか?
部屋に来るように言われた時はピンとこなかったけど、この時間に誰も居ないなんてあるのか?
自然に視線を巡らせていた。
「はい、どうぞ」
「あぁ、すいません」
何だか、部屋の様子が…よく解らないけどさっぱりし過ぎてる気もするが。
家族で生活していたらもっとごちゃごちゃというか生活感がもっとあっても良さそうだけどな。
…いや、確か離婚したって言ってたか…。だからか。
何を話す事がある…。
誰が誰を好きなんて個人の問題だ。
餓鬼じゃあるまいし、取ったの取られたのという事でも無いだろう。
俺にわざわざ灯の事が好きだとでも言うつもりか。
「五十嵐君で良かったよね、名前」
「はい」
「成美とはどうですか」
どうですか?
「別に…普通だと思いますが」
「そうですか。俺と成美が昔関係があった事は?」
「知ってます」
容赦無く言ってくるな。
「最近、あった事も?」
あった?会ったじゃないよな、職場では会うんだから。
はぁ、随分と単刀直入に言うよな。
「…聞かなくても、解ってましたが」
「何とも?」
はあ?何とも思わない訳無いだろうが。何涼しい顔して聞いてきやがる。
「何とも無いとは思わないでしょ普通」
くそ…、こんな言い方をすると、余裕の無い若僧だと思われるか。思う壷だ。
「誤解の無いように言っておくが、無理矢理では無いからな。
大人の狡い合意だ」
フ。…。なんじゃそれ。
ようは灯の事がずっと好きだったって事なんだろ?何かがきっかけで抑えられなくなったんだろ?
「あんた、…藤木さんは確か結婚されてると」
「あぁ、してました。だが、もう過去形です」
やっぱり離婚したって事か。…まさか、灯と一緒になる為に離婚したのか?