好きになるまで待ってなんていられない
「あー、誤解の無いように言っておきますが、成美は一切関係の無い離婚です。他人の離婚話に何の興味も無いでしょうが、元妻が自分から望んだ離婚です」
…それだけじゃ、灯が関係無いとはならない。
灯との事で、離婚してくれって言ったかも知れない。俺には所詮真実なんて解らないからな。
「そうですか」
「疑ってますよね?」
「どうでもいいです」
「まあ、そうだ。…簡単に言うと。
結婚前から妻には好きな人が居た。その相手は妻帯者だった。その男が離婚した。一緒になれるようになった。だから離婚した。
という話です」
「は?余計な事ですが、何故…、直ぐ離婚しなかったのか、不思議なんですけど。
そんな事解った段階で別れませんか?」
「確かにその通りだ。
だけど子供が居たからだ。
何も知らない子供が居た」
「は?よく解らないです。
結婚前から別の男が好きだという女と結婚して、子供、作れます?
普通、抱けなくなるもんじゃないですか?」
「俺の子供じゃないんだ」
「…え?は?どういう…」
…奥さんに騙されたのか。あんたの子だって。
「…妊娠してるって解った時点で、俺に子供が欲しいからと、して欲しいと言って来たんだ」
浮気相手、この場合は本命と言うのか、その相手との子供を妊娠したって事だよな。…なんて…空しい事を、…そんなの、なんでそんな事に応じる必要がある…。
「空しいじゃないですか、そんなのって」
「婚姻関係は続けたかったんじゃ無いのかな。
早くに慌てて俺と離婚して、相手がいつになったら、はっきりしてくれるか解らないものを待つ事を考えたら、駄目だった時の保険が欲しかったんだろう」
「それって…、あまりにも都合のいい狡さじゃないですか。
だから、婚姻関係を続けながらじっと待ってたって事ですよね」
「まあ、そうなるのかな」
…。
「俺も、…ただ暮らしてるだけの、いい夫、いいお父さんを演じていればいいんだと思う事にしたから、特に何も感じなくなったんだ。
唯一、苦痛だったのは、あいつを子作りだと言われて抱かないといけなかった事だ。あいつだって隠す為だとはいえ、どんな気持ちでしてたのか…」