好きになるまで待ってなんていられない
「あ、有難うございました。ほ、本当だ、なんだか、よく見える気がします」
気がしますって、失礼な言い方しちゃったな…。慌てて男の腕を掴んで、もう、離そうとした。
「あ、何だかごめんなさい」
掴んだけど手は顔から離れなかった。…え。
「…あんたさ。何か、感じる?」
「え?」
もうこの状態…、胸が苦しい。その事?さとられてる?
「…こうしてると」
「え」
顔がもっと近づいた。
う…止めて、苦しい。息が出来なくなる。
「感じる?」
…。
だから、な、に…。こんなの…。ドキドキして。これ以上何を感じろって言うの。
…こんなの。
首を傾げて更に顔が近付いた。……え、なに、を。
あ…もうこのままでは触れてしまう。
…。
「…フ」
あ…、コーヒーの香りだけが触れた。
「…あんたさ。こんなに近付いても、俺を突き飛ばしもしなければ、瞼を閉じる訳でもないんだ」
…カァー。もう…嫌…。馬鹿みたいじゃない…私。……だったらなに?こんな状況作られて、それだけで誰だってドキドキするでしょ…。
振り払うように腕から手を離し立ち上がった。
バッグを手に取り、裏口のドアに向かって急いだ。
「フ…怒ってしまったか…」
あ…、出たところでフェンスは越えられないんだった。…もう!歯痒い。…目の前に階段は見えてるっていうのに。
キョロキョロして敷き詰められている砂利の上をヨタヨタと走った。
駐車場迄出れば舗装されている。……選りによって今日の靴はヒールが少し高い。
コツ、コツ。やっと駐車場の出入口まで来た。
手を掛け横に引いてみた。ガチャ…。ガチャガチャ。…はぁ、開かない、…閉まってる。
もう…どうして。
どうしよう。同じ高さではどうにもならない。
裸足になって、跨がるようによじ登れば…向こうに下りられるかも。
ヒールを脱いだ。隙間からパソコンバッグを出した。ヒールも差し込むようにして外に出した。
「おっ、どうするつもりだ。無茶は止めろ。あまり高くないからといっても擦り傷が出来てしまうぞ」
「あ」
嘘、もう来てるなんて…。いいからほっといて。関わらないで。
「開けるから待って」