好きになるまで待ってなんていられない


「ケーキセットとかにしないんだ」

…。

本当はそのつもりだったわよ。せっかく休憩するんだもの。だけど、…咄嗟に止めたのよ。
相席が貴方だったから。

「…しない。…珈琲だけでいいの」

「ま、その方が、珈琲を純粋に味わえるな」

…。

もう、まだかなー。…もの凄く気まずい。

…。

「足、大丈夫か?裸足でなんて走って。傷んだろ?大丈夫か?」

え。

「…大丈夫」

「…そうか」

…。

「お待たせ致しました」

二人分、一緒に来た。

はぁ、地獄の三丁目から一丁目…、入り口くらいに戻れた気分よ。これで少しはマシになった。
もう…何も無しでは間が、この沈黙が堪えられない。
飲んだら即帰るんだから。

ストローをさした。口を付けた。…ん。

「美味しい…」

思わず呟いた。話しかけた訳じゃない。香りもいい。本当に優しいまろやかな味だったから。

男が長い指でグラスを掴んでいた。

ドキッ。…情けない…。こんな時でも気にして目に止めてしまった。
この指で、手で施術するんだ。……私、変態では無いからね私。

「…うん。旨いな」

「あ、はい」

あ゙、うっかり返事をしてしまった。

「真っ直ぐ部屋に帰るんだろ?」

「え?あ、まあ、はい。買った物、なるべく早くしまわないといけないから」

「…だよな」

…。

え、だから何…。帰るわよ。当然でしょ。

飲み終えた。

「では、お先に」

一刻も早くこの場を去りたい。
立ち上がった。なんて店にとって稼働率のいい客…。

「荷物、持つよ」

え?
< 21 / 150 >

この作品をシェア

pagetop