好きになるまで待ってなんていられない
男は二枚の伝票を持ち、私の横にあったエコバッグに手に伸ばしていた。
軽々と持ち上げ肩に掛けるとレジに向かった。
「あ、ちょっと…」
勝手にさっさと支払いを済ませると、店舗の中に出て行く。もう…。ただ追い掛けるしかなかった。
「あんた、エレベーター?階段?」
立ち止まり、振り返ると聞かれた。
「…え?…階、段」
「へえ、偉いじゃん」
…別に。貴方に褒められたい訳じゃないから。
「じゃあ、階段で下りるか」
「あ、ちょっと、待って」
バッグの人質を取られてはついて行くしかない。
「大丈夫か?」
「ぇえっ?」
足元を確認しながら、ゆっくり下りていた。声を掛けられるとは思っていなかった。
殊の外、強めに声が出てしまった。
「…足の裏。痛いんじゃないのか?本当は」
心なしか、男がゆっくり下りてくれてる気がした。
「無理すんなよ。って言っても、歩くしか無いけどな。…見えてるのか?ゆっくりでいいぞ?」
この人…。どの部分が本当のこの人なのか、よく解らない。
今は、ここだけなら、気遣いの出来る人。…作っている部分なんだろうか。
金曜の夜は…、途中からよく解らない、意地悪な人…だった。
「あんたに取ったら凄く早く着くかも知れないが、俺、車なんだ。だから乗って」
え。
下に下りた途端、手を引かれた。
「こっちだから」
「あ、ちょっと。大丈夫ですから。あ、珈琲代まだ…」
「乗って」
ピピ。
「取り敢えず、送ってからだ」
ドアを開けると押し込まれるように乗せられた。
「あ、いいです。ちょっと…」
こんな強引に…困る。
「シートベルト、してくれ」
ちょっとぉ。聞いてるの?人の話、全然聞こうとしないんだから。