好きになるまで待ってなんていられない


男が言った通り、あっという間だった。
近所の徒歩圏内で買い物をしていたのだから当たり前なんだけど。
車が滑り込んで停まったのは整体院の駐車場だった。

「信号で停まった時間の方が長かったくらいのもんだったな。あんたのとこは勝手に停められないだろ」

確かに。全部契約で埋まっているはずだし。ちょっと停める事だって出来ない。
また私の荷物を持って降りようとする。

「あ、ここで、大丈夫。ここで、大丈夫ですから」

どう見たってもう着いたと同じ事。
あ、珈琲代。確か…、600円だった。
お財布から取り出し、直接手渡した。

「フ。律儀だな。今回は貰っとくか。だけどこれは俺が持つ。部屋まで送る。結構、重いじゃないか」

え、そんな…。

あ…もう降りて歩いてる。

住んでるアパートはここだって、とうにバレてる。だけど、更に明確に、…部屋までは知られるのは…、困る。


「ちょっと、待ってください」

急いで追い掛けた。

ちょっと…歩くの早い。わざと?追いつけないように?

止まった。少し半身になった。

え。

「何階だ」

…それは、言える訳無いじゃない。

「1階じゃない事は解る」

…。

上がり始めた。何も聞かず2階を通り過ぎた。


「何号だ?」

3階で止まった。どうして、3階に…。

「何号室だ?」

…。

「ここで、もうここで大丈夫です」

「どこだ?」

…荷物を取ろうとしても渡してくれそうに無い。

「…奥。301…です」

「ん」


部屋の前まで来た。
…開けろと言わんばかりに私を見てる。

はぁ…。ここだって解ってしまったじゃない。渋々、鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。

カチャ。…開けた。もうバッグを受け取れば…。

「入るぞ」

「え?!」

…はい?…何故?
< 23 / 150 >

この作品をシェア

pagetop