好きになるまで待ってなんていられない
−部屋−


割り込むようにしてドアノブに手を掛けていた。
待って待って。勝手に。駄目駄目。何言ってるの。何してるの?

「いや、ちょっと、だ、駄目です」

押し退けるようにしてドアの前に立ち塞がった。駄目に決まってる。ここまででいいじゃない。

「何で」

なんでって…。

「駄目なものは駄目なんです。駄目に決まってるでしょ?」

「あ〜、さては散らかってるな。大丈夫だ、俺は気にしないから」

「散らかってなんかない。そんな事じゃないでしょ?」

むしろ、すっきり物が無いくらいだ。

「だったら何も問題無い」

話、聞いてます?もう私なんか関係なく、ドアは開ける勢いだ。

「あんまり騒がない方がよく無いか?玄関先で。ご近所さんがドア越しに聞き耳立ててるぞ」

あ、…嫌だ。本当。そうかも知れない。通路の音は部屋に居るとよく聞こえる。

「邪魔する」

一瞬の隙に開けて入ってしまった。あっ、…もう。
今のは反則よ。気を逸らされて隙が出来たじゃない…。追うように入った。

ドン。

「痛…ちょっとぉ、え?」

入ったら男の背中にぶつかった。
何…もう。立ったままその場に居るなんて思わなかったじゃない。てっきりもう上がり込んでるものだと思っていた。
エコバッグを廊下に静かに下ろすとこっちに向き直った。

「大した事じゃない…」

「え?何が…」

玄関狭いんだから…向き直ったりしてるとぶつかるでしょ。
…え。

「金曜の夜、出来なかった…」

いきなり顔を包まれ、屈み込むようにして唇が触れた。
ん。ん?…あ、ちょっと、何?!。びっくりして目を見開いた。

「ん…。もうちょっと、いいか…」

ぁ。ん、んん、ふっ、…ん。
いいも何も。もうしてる!ちょっと…や、止めて…。あ、…。
壁を背に、思うように暴れられない、ん゙…抵抗出来ない。
押し返そうとする手は胸で掴まれてしまった。そのまま壁に押し付けられてしまった。

…んん、ん…。
触れるどころか、いきなり長い……熱くて…苦い。
ん゙。…はぁ、…はぁ、…。
やっと解放された。唇を指でなぞり、顔を包んだ。

「フ、じゃあな」

ジッと見つめて頭に手を置くと帰って行った。

は…ちょっと、………何よ。…何よ。生意気…悪魔ー!…子供扱いして…何してるのよ。
…苦い…同じ珈琲の香りが残った。
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