好きになるまで待ってなんていられない
え、あいつ?
少しずつ後ろに下がった。音をたてないように、気配を感じ取られないように、そう思うと思うようにはドアから離れられなかった。
「俺だ」
っ。…解ってます。だから下がってるんでしょ。
…。
静かだ。帰ったかしら。
カ、チャ。
え?!嘘。
「危ない…、開いてる。…居るじゃないか」
何平然と入って来ているのよ。
「あ、ちょ、何よ、勝手に」
「来い」
「え゛っ」
「いいから、来い」
手を伸ばして引っ張られた。
「部屋の鍵、どこだ。ああ、これか」
下駄箱の上のキーケースから鍵を取った。
「ちょっと、勝手に…何して…」
「靴は…これでいいだろ」
えっ?!
「しっかり持っとけ」
抱き上げられた。
外に出ると鍵を掛けた。ポケットにしまってる。
「ちょっと!鍵…私の…。下して」
いや、鍵がじゃなくて、何してくれてるの、何よ、これ。
「ん?鍵は一時預かりだ」
ズンズン下りていく。
「べ、ベランダ、開けっ放し。…下ろして」
もう2階まで下りていた。
「ん?大丈夫だ。カーテンは閉めてるだろ?」
「…うん」
違うよ…そんな事じゃ無い!
「下ろして。どうして?何でこんな事するの?ねえ、下ろして!」
嫌いって言ったじゃない。
「ああ、下ろしてやる」
歩道にはハザードが点滅した車が停まっていた。
「今下ろしてやる」
助手席のドアを開けると素早く座らされ、シートベルトを掛けられた。
靴は持っていかれた。
後ろを確認して乗り込むと足元に靴を置いた。
ミラーで確認すると、車は瞬く間に走り出した。
「停めて、降ろして。靴、返して。人さらい、誘拐!」
「煩い…。こっちに置いといた方が飛び出して走る可能性は低い。ま、あんた、靴が無くても走るけどな」
…。
「お願い、降ろして。停めて」
…前を向いたまま相手もしてくれない。部屋がドンドン遠くなっていく。
「…どこに行くつもり…」
「俺のテリトリー」