好きになるまで待ってなんていられない
玄関を開けた。
「2階に上がる」
…。
そんな事言われて、従ってるつもりは無いけど。
手はしっかり繋がれているし、もう上がってるし。
内装もモダンで雰囲気のある独特な造りの家。
螺旋状の階段を上がって行く。
「入ってくれ」
いくつか並んだ部屋の一つ、ドアを開けられた。
足を踏み入れる事は更に危険信号じゃないの。
これは…まるで広いマンションのワンルームみたいな部屋。
円卓に料理が並べられていた。
大きなソファー。大画面のテレビ。奥にはキングサイズ程のベッドが見えていた。
「飯、まだ食ってないだろ?」
…まあ、確かに。
「俺もまだだから、一緒に食べよう」
近くで見れば和食だ。とても家庭的な料理が並んでいた。…家政婦さんでもいるのだろうか。
「時々、キヨさんが持って来てくれる」
ああ、受付をしているという年配の女性の事ね。
「死んだ母親と仲が良かった」
そうだ、一人だって言ってた。ではお父さんも、もう…。
「父親も、もう居ない。俺は元々一人だ」
…え?元々?
「俺は養子だ」
…あぁ、そういう事で元々って言ったのか。
「色々言わなくても解るよな。つまり、小さい頃に捨てられた。本当の親は誰なのか解らない。
どこかに親族が居るかも知れないが、解らないし、居ないのかも知れない。興味もない。
育ての親が亡くなってしまったから、一人って事だな。あんた、家族は」
…。
「まあ、聞く権利も無いし、言わなくていいけど」
「…父方の祖父母と父はもう亡くなりました。母は、健在かどうか知りません」
「そうか…兄弟は?」
「知る限りでは居ません」
「じゃあ、あんたも一人って訳か」
…。
「まあ、飯、食うか」