好きになるまで待ってなんていられない


「…血が騒ぐような事、さらっと言うからだ。今日はもう、満足させられるキスは出来ない」

…はっ?

「あんたさ、俺に興味あるだろ」

…は?。……。

「あるよな。無いとは言わせない」

…。

「気まずいと思う事も、避けようとするのも、意識の中に俺が居るからだろ?どんなに続けて会ったって、普通に挨拶する人は普通に居る。そこから話す回数が増えたりするもんだ、普通はな。だけどあんたは、こんにちはと、こんばんは以外言わない、意識してな」

…。

「煙草に何か思い出でもあるのか?」

…。

「あんた…、煙草の匂いの付いた手で触れると、何とも言えない切ない顔をする…今だって」

纏めていた髪を解かれた。
あ、…。耳に掛かるように梳き上げられた。

「…女だな。こうすると感じが随分変わる…。煙草…辛い思い出なのか…」

耳で止まったままの男の手を掴んでいた。
…何も言わなくなった。

ドキドキしていた。
ううん、そんな表現では追いつかない。こんな風にされて、こんな…爆発しそうな鼓動は久しぶりかも知れない…。

「こ、こんなのに…流されないから」

やっと反撃の声が出た。

「…何故」

「何故でも…」

「…流されろよ」

…。

このまま…雰囲気で流されるなんて、駄目に決まってる。…恐すぎる。

…。

長く見つめ合った。
…これは、駆け引きなの?じゃあ逸らした方が負け?

男が先に目を逸らした。

「フ。何も…とって食ったりしない。ただ、今夜は帰さない」

「えっ?はあ?」

何言ってるの…。帰さないなんて、どういう意味に取れと言うの。

「…満足させてやれないって言ったのは、キスだけだ」
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