好きになるまで待ってなんていられない
「ほら、風呂入れよ。その奥のドア、開けたらあっちは浴室だ。お湯は溜めてある」
…え?
男は薄い上下のスウェットを押し付けるように渡してくる。ちょっと…。
あのベッドの向こうの扉って事?
あ、待って。そうじゃ無くて、なんでお風呂に入らなくちゃいけないの?。
明日、月曜よ?…帰さない、なんて言われても、困る。違う違う、問題はそこじゃない。
何も従って入る必要なんか無いんだから。何が、帰さない、よ。
「帰ります」
「仕事、午後からだろ?」
…。だから、そうじゃなくて。帰るって言ってるでしょ。
「私、出勤前に時間の余裕が無いのは嫌なんです。だから、…もう帰る。帰ります」
「俺だって明日は仕事だ。俺の時間に合わせて出ても充分に間に合う。午前中に帰れるんだから、余裕だろ」
「そういう事じゃなくて、泊まる理由なんてない…なんでお風呂なんて…」
入らないといけないのよ。ナニカの前に、綺麗にしろって事?…。
「身体をじっくり温めて、リラックスする為だろうが。ガチガチではやり辛い。どうせ、した事なんかないんだろ?
色々痛いからな。解し易くなるし、やり易い。すれば血行も良くなる。苦痛に堪えたら汗もかくだろうから、した後でまたシャワーでもすればいい。すっきりしてぐっすり眠れる」
…。ふぅ。男を睨んだ。
スウェットを押し付けた。手は塞がってる。
パンッ。
右手で男の頬を思いっきり叩いた。
「イッ、ター‼はぁあっ?!」
「もう…最低!馬鹿!…変態」
ズカズカと歩いてドアに向かった。
……どうせしたこと無いだろ?…色々痛い?…すっきりして眠れる?だとー?。
はっ!……馬鹿にしないでよ。
廊下に出て階段を駆け降りた。
玄関のドアを出掛けた。
声が降って来た。
「おい。入れないぞ」
え?何?何言ってるの。
間違っても、出られないの間違いじゃないの?
それにここ、鍵なんか掛かってない。
「こ〜れ〜」
……え?…あ。…。
ジャラッと振って見せてる。…鍵?
はぁ、そうだ、…そうだった。…。
部屋の鍵は男が持ったままだったんだ。
…。
「帰ったところで、どうやって入るんだ?」