好きになるまで待ってなんていられない
−血色−
「とにかく、風呂に入って来い。カラスの行水なんかじゃ無くゆっくり浸かれ。ジワッと汗が出るくらい浸かっとけ。出て来たらベッドに横になれ。解ったか」
…何よ、もう。承諾なんてしてない。…命令ばっかり。
本当に整体だけなのよね…。
素直に従おうとしている私も私だけど。…こんなのどう考えたって危険極まりないじゃない。
ジトッと見た。
「疑いの目で見るな…、いいから行け。中にある物、好きに使っていいから」
入ったら出られないとか、マジックミラーとかになってて見られてるみたいな事ないの?
「…何を疑ってる。覗いたりしない。安心しろ。早く入れ。時間がどんどん遅くなるぞ?早く終わらせたいだろ?」
もうよく解らない。変な理屈。別に整体だって今日じゃないといけない訳じゃないのに。
「あぁ、もう、ほら」
腕を引っ張られ、ドアを開け、明かりを点けると、押し込まれて閉められた。
「あ、ちょっと」
…。
カチャ。
え?…えっ?何?外から鍵?
「ちゃんと入ったら開けてやる」
「えー、何?こんなの嫌、監禁?何、開けて、開けて、開けてー!」
ドンドンとドアを叩いた。
…あーもう、煩い。
カチャ。
「いちいち騒ぐな。入れば済む事だ。何にもしないって言ってるだろうが…あ?…あ」
へたり込んでいた。
「…知らない家で…初めてで…、お風呂なんて嫌。…怖い。目を錘って開けて、…何か見えたら怖い。変なモノが目の前に居たら怖い。怖いんだから」
…。
「はぁ…。大丈夫だ。俺ん家はお化け屋敷じゃない。そんなもんは居ないし、出ない。
…色々突っ込みたい事あるけど…まあ、今はいい。じゃあ何か?俺と入るのがいいのか?」
…。
「…一人で入る」
パタン。
か。…全く。
「じゃあ、何かあったら言えよ」
カチャッ。
「何かあるの!?」
「…無いよ。…はぁ」
パタン。
「あ、鍵しないで」
パタン。
「解ったよ」
あー、…何なんだ。怖がりだなぁ。…フ。そういえば、あの時も手を合わせてなんか言ってたな。
きっとなんか怖い思いをした事でもあるんだな。だったら、知らない家の風呂も何となく怖いと思うのは頷ける。
ま、何もないから大丈夫だ。