好きになるまで待ってなんていられない
…はぁ。
目が覚めたら、もうあいつはいなかった。
微かに珈琲の香り…。と、煙草の匂いがした。
テーブルにメモが置いてあった。えっと、何、何…。
「鍵は掛けてドアポストに入れておく事にする。珈琲一杯、ご馳走になった。悪いな、煙草、流しで吸ってそのままだ」
それはいい。そんな事は別にいい。
あ、うわ…、いつもの起きる時間より全然遅いじゃない。
…。
はぁ、…情けないくらい身体の中が熱くて…怠い。こんなにして、どうしてくれるのよ。
【おはようございます、お疲れ様です。急で申し訳ございませんが、熱があって体調不良により今日は休みます。 成美】
…体調不良。そうよ、嘘はついてない、体調不良に違いはない。
おへその下の奥の方、身体の中心に熱の元があるみたいに怠い。腰も…身体全体も怠い。
はぁ、この怠さ、一日あれば回復するモノだったっけ…。
うちの会社は、欠勤をメールで連絡して良い事になっている。問い返されもしないから詳しく説明もしなくて済む。
休む連絡を入れておけば問題は無い。
ん。何だか…、ちょっと動く度に気怠い声が洩れるのが、…妙に癪に触る。
…あいつ。
珈琲の香り、煙草の匂い。私の好きなモノを残して行って…。
はぁ、休むって決めたし。…ふぅ。
久し振りの交わりは堪えた…。身体に悪い…。
…女性的には身体にいいのか、…。なんか、良いホルモンが放出されるとか。…。
洗面台の鏡を覗いて見た。…確かに。
たった一夜の事なのに、肌の色がいい気がする。嫌だ。…。これは…身体が熱っているからだ。
…血行がいいからよ。
あ、おっと…危なかった。うっかりにも程がある。
無意識にベランダに出ようとして、何も着てなかった事に気がついた。
ショーツを穿いた。
ルームウェアを頭から被り、ベランダに出た。
「…おはよ、ミンちゃん。だらしないオバサンでごめん。今日、肌ちょっと綺麗みたいなのよ?見て?」
…。
今日は外出はしない方がいいな。
会社関係の誰かに偶然会って、元気そうで…ずる休みって思われたら面倒だもの。
「おばあちゃん、…おじいちゃん、……お父さん。おはようございます。何だか…こんな事に、なってしまいました。あいつ、…あの男は、なんて挨拶したんでしょうか」
…。
ミンちゃんといい、仏様といい、返事は貰えないんだけど。
好きだとか…何も言わない…。言葉で確かめないまま、事がすすんでしまいました。
ドキドキだけで…これは…流されたって事になるの?
こういうの、駄目なのに…。