好きになるまで待ってなんていられない
これは…。
急に用意なんか出来ない物。自分用のお昼ご飯なんじゃないのかな。
どこかで買った代物では無い。
見れば解る。手作りのお弁当だ。
きっとお母さんの作ったお弁当を私が横取りしてしまった事になってしまったのね。
具合が悪い訳じゃ無いから普通に食欲はある。有り難く味わって頂かないと罰が当たりそうだ。
美味しく頂いて容器を綺麗に洗っておいた。
せっかく休んだんだ。もう少し横になろう。その前に軽くシャワーを浴びてからにしようか。
念入りに洗っていたつもりはなかったが、お湯の流れる身体に触れながら…、色々と思い出してしまった。少し長く時間を掛け過ぎた。
なんだかグラつく…フラフラする。
何とかベッドに辿り着き、伏せると眠った。
夢を見た。それが夢だと思わないくらい鮮明で、感触のあるモノだった。私の夢はカラーだ。
第一、夢を見る程、いつも眠れていなかったんだから。
『こんな事なら、結婚なんかしなきゃ良かった』
『…何言ってるんですか。二人目のお子さんがもうすぐ産まれるんですよね?』
『…ああ』
奥さんと、する事した証拠でしょ?立ち会い出産、するんでしょ?
『どうしても欲しいって言うから』
そんなのは今になっての言葉よ。好きだから結婚したんでしょうが。
よりによって事務所に誰も居ないなんて…。居ないからなんだろうけど。
とんだ告白タイムになってるじゃない。
幸せに余裕が出来たから、遊びたくなったのだろうか。
本気でも無い、面倒な告白…。
『…成美。男、居ないのか?』
『答え無くていい質問ですよね』
『居ても居なくても関係ない…。そんなのでどうだ?』
は?何それ…。え?
始めようとして、よく口にする、割り切った大人の関係ってやつですか。
『意味が解りません。そんな事は誰とだって無理ですよ。社長だって、頭に子供さん、ちらつきますよ?奧さん、好きなんですよね?』
『…ちらつかない。成美とだったらちらつかない』
『何言ってるんです、馬鹿ですか?』
…フ、社長に向かって言う言葉では無い。だけど、力一杯言ってやった。
始めてしまったら、どっちにもいい事なんか無い。
『ああ。…お前の事考えると馬鹿になる。腑抜けになる。…成美』
パソコンを打つ背中、後ろから抱きしめられた。
成美という言葉と共に息が掛かった。
…はぁ、…なんて…夢…。これは事実に準れた夢。
だけど、もう、とうの昔に終わった事の、始まりの一端だ…。