好きになるまで待ってなんていられない


「私のね…初めてのキスって、…煙草の味がしたの」

今からされるって雰囲気になって凄くドキドキした。
短距離を走ってる鼓動とは違った。
音が聞こえそうなくらい高鳴った。

…。

「随分、大人としたもんだな。それとも遅かったのか」

胸から声が聞こえて来る。

「ううん、…大人じゃない」

「ふ〜ん。じゃあ…、ちょっと悪い奴だったんだ」

「あ。悪い奴とかじゃ無かった。根はいい子だったから。ただ、興味本位で吸ってたんじゃないかと思う。そんなのあるでしょ?でも…そういうの、…悪いって言うのか…」

「そいつ、自分の意識では、それほど悪い事してると思ってなかったんだろ。
そんな年頃だろ。って、あんたがいくつの時の話だ?」

「…15」

「…中学生か」

「うん、三年生だった」

「はぁ。思春期真っ只中だな…。じゃあ相手は、高校生くらいか…」

「ううん、違う…一つ下」

「は。…それは、…悪い子だ、ある意味、色々な」

…。

「そいつと…したのはキスだけか」

「うん…」

「初めてがちょっと不器用で煙草の味がしたなんて…そりゃあ、印象が強烈で、忘れられないな…。相手の事も、キスも」

「うん」

「だから、か。…妙に切ない顔をするのは」

頬に手を当てられ顔を見られた。

…沢山…忘れられる程、恋をしていないというのもある。

「自分では解らないけど…」

「…うん。だけど、チラッと過ぎるから…顔が変わるんだろ。それが…まぁ…切なくて、こっちを堪らなくさせる顔なんだけどな。年齢の割に、大人な、ディープなキスをしたもんだな。味が分かるって…苦いって言うのは印象で、実際、ピリピリしただろ…」

「そう言われれば…、うん、複雑な味?味は無かったのかも、イメージかな?
苦いって言うのも匂いのイメージかも。ピリピリしたって言うのが一番合ってるみたい」

「だろう?」

「……貴方も誰かに言われたんだ」

「あ?」

「した後に。…ピリピリした、って、女の人に言われたんだ…。じゃなきゃ解らない事だもの…」

多分この人だって、学生の頃からずっと吸ってるはず。

…。

「自分では…、吸ってる本人には解らない…そんなに気にして感じてないでしょ?相手に言われないと解らない事だもの…」

「…そうだな」

…あっさり言うのね。

「そいつとは?」

大人な付き合いの事を聞かれたと思って、首を振った。

「高校生になって、暫くして別れた。凄く短いお付き合いしか出来なかった。色々あって」

「簡単には言えないが、その頃は、そんなもんかも知れない」

「…うん」

「…はぁ。思いがけず、知りたく無い事、聞かされたな〜。お陰で…あんたが泣いてるとこも想像した…」

え?

「あんたさ、優等生タイプだっただろ。ガチガチにっていうんじゃなくて、出来たタイプ」

まぁ、そんな感じだったかな。なんで解るんだろ。

「…思春期の別れは辛いからな…。繊細だから。俺に…無遠慮にキスされて、嫌じゃなかったか?
こんなキスで、煙草のキスの思い出が消されてしまう、とか、…思わなかったか?」

「うん」

「…おい、…どっちだ?」

「…思い出は思い出。でも、もう…、薄れてるっていうのとは違うけど、凄く奥の方にある感じだから。消されるとか、そんなのとは違う。引き出しの中にあるから消えはしないと思う…」

今は…貴方とのキスが嫌なはずなんてない。私は天の邪鬼だから。


「あ、…」

「どうした…」

忘れてた訳じゃないけど、…思い出した。
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