好きになるまで待ってなんていられない


絶対、今日は会わないように出掛けてやる…。
…今日だって血色が悪い。前日よりもっと悪いよ?

散々泣いたし、寝なかったし。化粧してても、間違いなく、くすんでる。
…フンッだ。


…だいたい…、決まって会うって事は、あっちだって時間で行動してるって事でしょ?そうでしょ?
私は殆ど差がない程、毎日決まった時間に出ている。

だから、僅か一分でも早く出たら、すれ違うはずなんじゃない?

している事は変わらない。
行ってきますと部屋に声を掛け、少し早く出た。

階段を下りる。

いつもなら、下り切るまでに匂いはしている。

…しない。クンクン、間違いない。煙草の匂いがしない。
つまり、居ないわね。

コツン、コツンと下まで下りた。

やっぱり居ない。今のうちに…。

ササッと小走りでアパートの脇を通り過ぎ、駐車場の横を通り、歩道に出て歩いた。
ふぅ。ここまで来れば、もう、出て来ようがかまわない。関係無い。
右に折れ、整体院の前にある歩道を歩いた。


パタンとドアの閉まる音が微かに聞こえた気がした。
ぜ〜ったい、振り返らないから。
だってわざわざ振り向いて戻ってまで、こんにちは、って、挨拶する必要なんて無いんだし。
多分、あの男なんだと思いながら、先を急いだ。

…あ。

煙草の匂いって凄いかも。
今、確かにいつもの匂いが僅かにしている。

歩いて行く私の後ろで、あの男が吸い始めたって事かな。

こんな僅かな匂いなのに解ってしまう。
はぁぁ、何だか、ドキドキしているのは、少し早歩きしているせいにしてしまいたい。
決してあの男の煙草にでは無く、ただ漂ってくる煙草の匂いにドキドキしているのよ…。
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