好きになるまで待ってなんていられない


沢山されたからなのか充たされたからなのか、…流石にキスで気絶はしなかったけど、温かい気持ちで眠りについていた。

…目が覚めて一人だと思った。
朝になっていた。
ぐっすり寝て、夢を見なかった事に感謝だ。

……ふぅ。今日は仕事に行かないといけない。…色々と怠い。

ちょっと夢に現れ、思い出した事で、普段の自分とは既に違うと思った。
もうどこか緊張している。整える為の余裕の時間だって足りない気がした。
こんなドキドキは要らない。欲しくない。

今更の事じゃ無い。何年経っていると思ってるの。終わってるのよ。言い聞かせてる事が平気だけど、平気の中で少し動揺している。

あの頃、現実は何一つ変わりはしなかったでしょ?
誰にも知られずに始まり、誰も知る事なく、終わっている。
何もなかったと同じ事。元通り。

昨日の書類が、きっとわざとみたいにデスクに積まれている事だろう。
本気のイジメではなく、面白半分にだ。
少し早目に出ないとスタートで躓く羽目になる。出来れば自分のペースで始めたい。


1分どころか、10分以上早目に出た。
コツ、コツと下りても、煙草の匂いはしない。
姿も無い。
建物の横を過ぎ、コツ、コツと足早に歩いた。

駐車場の前を過ぎても、裏口のドアの音もしなければ、煙草の匂いが追い掛けてくる様子も無かった。
当たり前よね。
これは私の都合で、あいつにはあいつの日常がある。



「お疲れ様です」

「おぉ…。お疲れ。もう、いいのか?」

今日は来いって言う言い方だったでしょ…。這ってだって来ます。気合でね?

「はい。昨日はすみませんでした」

「早速だけど、これだけは大至急。後は成美の好きなように」

…。

優先順位は私次第でいいんだ…。

チラッと目に入った。
今日も愛妻弁当を食べたんだ。ハンカチに包まれたお弁当箱が見えた。
奥さんが作った物を見てイコール愛妻だと…みんな思うよね、それが普通。

ふぅ…。対応は全然普通。…当たり前よね。
夢を見たのは私だけで、何もあっちだって、悩まされるような夢はすすんで見ようとはしないだろうし。

「成美。ちょっと」

何だろう。呼ばれた。

「はい」

「久し振りに成美の夢を見たんだ…。どういう事だろうな。なぁ、これって何だと思う?」

…メールなんか、…余計な事したからじゃないですか?…単純なんですよ。
いくら小声とはいえ…。
この男…また馬鹿が始まったのか?子供に手が掛からなくなって来たからなのか?

「は?何言ってるんですか。相変わらず馬鹿ですか。……あっ」

しまった。口は押さえたけど遅かった。
…二人だけじゃ無かったのに。

「な、成美さん?…、あ、病み上がりだから、何か、混乱したんですよね、きっとそうだ。社長、成美さん、今のは本心じゃないですから」

どこまで聞こえていたのか解らないが、関係無い子に気を遣わせてしまった。
社長と私を見ながら、あわあわと慌てふためいて代わりに言い訳をしてくれている。
私達的には、全然…この程度の事は大丈夫なんだけど。それは解んないよね。
そう、そうと言うのも面倒臭かったけど、この場はそうしておかないと、事情を知らない人達には私の言葉はただの暴言にしか聞こえない。

「あー、何だかまだ熱に浮かされてるのかもー」

「大丈夫か、成美」

社長…上手く合わせて来た。

「大丈夫です!」

元々大丈夫なんだから。でも…何て事。夢を見たなんて、…それも同じ日に。
偶然、冗談で思い付く事とも思えなかった。
本当に私の夢を見たのなら、一体どんな夢を見たというの…。
あ゙ー、煩わしい。この男。
< 62 / 150 >

この作品をシェア

pagetop