好きになるまで待ってなんていられない
−幻視−
身体が求めているのだろうか…。あの男に会いたい。
幻でも会いに来て…。そう強く願えば叶うものだろうか。
この夢を消すくらい、強く現れて欲しい。
夢の中でもいいから、会いたい…会いにきて。……抱きしめてよ。
そんな可愛い事を願いながら瞼を閉じた。
…あいつの顔はどんな顔だったっけ。
見ているようで、恥ずかしくてジッと見られなくて、目を逸らしてばかりいるから。案外頭の中で映像が上手く作れないものね…。
んー、とにかく、何も夢を見ないで済むならそれでもいい。
眠れるなら、それでいい。…欲はかかない。
今日会わなかったけど、鍵、持ったままよね。
見てないけど、こんな時はドアポストにちゃんと入れられていたりして。
そんな気がして、気になるから起きて見に行った。
カタン。
あった。嘘みたいに鍵があった。
…お昼に会わなかったから、だからだ。返しに来たんだ。
はぁ…、何だかタイミングが悪かった…。
これを今日、持っていてくれたら、貴方は忍んで来てくれていたかも知れない。願望以外の何物でもないんだけど。
こんな夜更け…。普通にだってもう来ないだろう。
なんとなく不意にベランダに出て見ようと思った。
暗くてもミンちゃんの濃い緑が見えた。
街灯の明かりだ。
「ミンちゃん…、何も考えず眠るには、どうしたらいいんだろうね」
…。
ベランダのフェンスに腕を掛けた。前の通りを通過する車も、もう多くはない。
私の思い、飛んでいかないかな。…無理だけどね。
そんなに都合よく意思の疎通ははかれない。