好きになるまで待ってなんていられない
…嘘…だ。
ふと視線を落とした先。黒い塊の上の方に、オレンジ色の粒が見えた。
何より煙草の匂いが漂って来た。
歩道の先に居るのはあいつ?
何故?居るのに…。来ないの?こんな時間だから?
あ、…。
視力は弱くても視線は合ってる気がする。
ううん。確かに合ってる。解る。
私…。
部屋に入り、ガチャガチャと鍵を開け、階段を急いで下りた。
はぁ…、え…居ない。…嘘。そんな…確かにここに居たじゃない。
車…、車は?
無い。
駐車場も閉まっている。
急いで下りたつもりだ。
あれから直ぐ車に乗り、フェンスを閉めてこんなに早く立ち去れるものだろうか。
それとも、始めから居なかったの?
私の願望が勝手に形を作り上げたの?
あぁ…嘘…。あいつに何か良くない事でもあって、…それで現れたの?
確かに煙草の匂いもした。今だってしてるのよ。
それも私が作り上げた願望の幻臭だって言うの?
…何だっていい。会いに来てくれたと思えばいい。
夜中にがっくりと肩を落として歩道に立ちすくんでいる女。誰か通りすがれば、逆に驚かせてしまう事だろう。
「フ。おい」
…。
「おい!」
ひ、…え?
「ここだ」
え?どこ…。どこ?
「こ、こ」
……、え、もう、幻聴も?首を振った。
「居るよ。ここだ、ここ」
…でも聞こえる。確かにあいつの声だ。
「お〜い」
…上から?え?…ベランダ?
「戻って来い。…早く」
あ、あ…馬鹿、…。いつの間に…。
「うん!」
また階段を駆け上がった。
一人行ったり来たり、騒々しい住人だ。